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東京地方裁判所 平成7年(ワ)10574号 判決 2000年11月30日

原告 クレッシュ・アンド・カンパニー・リミテッド

右代表者取締役 アラン・ギャリー・エドワードクレッシュ

右訴訟代理人弁護士 原壽

同 木村久也

同 宇野総一郎

同 酒井紀子

被告 ナウル共和国金融公社

右代表者議長 ジェー・フリッツ

他1名

被告ら訴訟代理人弁護士 片山英二

同 林康司

同 服部誠

主文

被告らは連帯して原告に対し、一〇億円及びこれに対する平成六年七月二八日から支払済みまで年七分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文と同じ。

第二事案の概要

一  原告の請求原因と被告の答弁の要旨

本件は、被告ナウル共和国の保証の下に被告ナウル共和国金融公社が発行した円貨債券を取得した原告が、被告らに対し、債券の元金一〇億円とこれに対する約定利息の支払を求めた事案である。

被告らは、外国国家及びその機関として裁判権の免除特権を主張し、本件訴えの却下を求めた上で、原告による債券の譲り受けは弁護士法七三条に違反する行為で無効であると主張し、請求棄却を求めた。

二  背景となる事実関係

以下の事実は、当事者間に争いがない。

1  当事者

被告ナウル共和国(以下「被告共和国」という。)は、外国国家であり、パプアニューギニアの東二一五〇キロメートルの中央太平洋ナウル島に位置し、燐鉱石を特産物とする島国である。

被告ナウル共和国金融公社(以下「被告公社」という。)は、一九七二年ナウル共和国金融公社法に基づいて設立されたナウル共和国法人であり、「ロンフィン」とも略称される。

原告は、一九八五年英国会社法に基づき、一九九〇年一二月一九日に設立された私的有限責任会社(登記番号二五六九七二八)である。

2  ナウル共和国保証C号ナウル金融公社円貨債券(一九八九)の発行及び償還義務の不履行

被告公社は、一九八九(平成元)年七月二七日、別紙1の「債券の要項」に従い債券の所持人に対して債券の元本金額とこれに対する利息を支払うことを券面上で約束する額面総額五〇億円の「ナウル共和国保証C号ナウル金融公社円貨債券(一九八九)」(以下「本件債券」という。)を発行し、被告共和国は、本件債券の券面上において、別紙2の「保証の要項」に従い本件債券の元金及び利息並びに債券の要項に従って支払われるべきその他の金員の支払期日における確実な支払を無条件かつ取消不能の形で保証した。本件債券の券面上でされた約束の条項は、別紙3のとおりである。

本件債券は、券面の金額一〇〇〇万円、利率年七パーセント(利息は、償還期日後はこれを付さない。ただし、被告公社が償還期日に償還を怠った場合には実際に償還が行われるまでの期間につき本件債券の利率に基づく利息を支払う。)として発行された無記名式利札付債券であり、一九九四(平成六)年七月二七日に額面金額で償還される約束であった。しかし、被告公社は、本件債券を期日に償還することができなかったため、一九九四(平成六)年八月一二日に、被告公社及び被告共和国と本件債券の債権者全員との間で、本件債券の券面を一〇〇万円に変更し、償還について、一九九四(平成六)年八月二二日及び一九九四(平成六)年一二月二〇日に各五億円を、一九九五(平成七)年四月二七日に残額四〇億円を額面金額で償還することに変更する合意がされた。しかし、この償還日の延期にもかかわらず、本件債券は、発行当初の償還日である一九九四(平成六)年七月二七日以降、元本・利息とも全く支払われないまま現在に至っている。

3  原告による本件債券の譲り受け

原告は、ケミカル信託銀行株式会社から、本件債券のうち、平成六年八月二二日一部償還該当分額面一億円(券面一〇〇万円、債券番号一五〇一号~一六〇〇号の一〇〇枚)、平成六年一二月二〇日一部償還該当分額面一億円(券面一〇〇万円、債券番号一六〇一~一七〇〇号の一〇〇枚)、平成七年四月二七日満期償還該当分額面八億円(券面一〇〇万円、債券番号一七〇一~二五〇〇号)の額面合計一〇億円分の債券の譲渡を受け、社債等登録法に基づき、いずれも平成七年五月一八日に原告名義への移転登録を受けた。

4  裁判管轄に関する本件債券上の約束

被告公社は、本件債券の券面上に表示した別紙3の約束で引用した別紙1の「債券の要項」第二六項において、「本債券、本債券の債券及び本債券の要項から生ずるか又はこれらに関するロンフィン(被告公社を指す。)に対する一切の訴訟は、東京地方裁判所及び日本法上当該裁判所からの上訴を審理する権限を有する日本の裁判所に対して提起することができ、ロンフィンはかかる裁判所の管轄権に明示的、無条件かつ取消不能の形で服する。ロンフィンに対するかかる訴訟は共和国(被告共和国を指す。)法に基づき管轄権を有する被告共和国の裁判所に対しても提起することができる。ロンフィンが、それ自身もしくはその財産又は資産に関し、司法上の手続(送達、判決の取得、差押え、強制執行又はその他に関するものであるか否かを問わない。)からの免責特権(主権に基づくか否かを問わない。)を有し又は将来取得する範囲において、ロンフィンは本債券に基づくロンフィンの債務に関してロンフィンに対し日本もしくは共和国の上記裁判所において提起されるかかる司法上の手続からのかかる免責特権を、適用法上可能な限度まで、無条件かつ取消不能の形でここに放棄する。ロンフィンは、ここに本債券、本債券の債券及び本債券の要項から生ずるか又はこれらに関して日本において提起されることのある一切の訴訟につき、ロンフィンの権限ある送達受領代理人として日本における共和国領事を指名し、かかる送達を受けるべき宛先として、日本国鹿児島市加治屋町一二番一三号福岡デンタルビルに所在するナウル共和国領事館をここに指定する。」との約束をした。

被告共和国は、本件債券の券面上に表示した別紙3の保証の約束で引用した別紙2の「保証の要項」の第九項において、「共和国に対する本保証(本要項を含む。)にかかるすべての訴訟は、東京地方裁判所および日本法上同裁判所からの上訴を審理する権限を有する裁判所に提起することができるものとし、共和国はかかるすべての訴訟につきその管轄に明示的かつ取消不能の形でここに服する。なお、上記の訴訟は、共和国の管轄裁判所に対しても提起することができる。共和国は法律上可能な限り、かかる訴訟に関して享受し得ることあるべき裁判管轄権、訴訟手続、差押え、判決または執行からの免責特権をここに取消不能の形で放棄する。共和国は、上記の日本の裁判所に提起されたかかる訴訟に関し、訴状送達を受けるための住所を日本国鹿児島市加治屋町一二番一三号福岡デンタルビルの共和国領事館に定め、その駐在日本国領事をもって訴状送達の受取人とする。」との約束をした。

三  本件訴訟の訴状送達の経緯

以下の事実は、当裁判所に顕著である。

原告は、平成七年六月一日に本件訴訟を提起したが、被告らは、当裁判所による応訴意思の確認に対し、応訴する意思がない旨回答した。当裁判所の裁判長は、旧民事訴訟法一七五条に従い、平成九年五月三〇日付けで、日本国外務省及びナウル共和国外務省を通じてナウル共和国最高裁判所に対し、本件訴状及び平成一〇年三月一九日午前一〇時〇〇分の口頭弁論期日呼出状の送達を嘱託したところ、ナウル共和国最高裁判所は、ナウル共和国官房長官に対して送達することが適当であると判断し、関係書類をナウル共和国官房長官に送達した。しかし、ナウル共和国官房長官は、日本の裁判権から免除されていることを理由にナウル共和国最高裁判所に対して送達の受領証を送付することを拒否し、ナウル共和国外務省は日本国外務省に対し、被告共和国と被告公社のいずれも日本の裁判権から免除されているという理由で送達を受け入れない旨回答した。平成一〇年三月一九日午前一〇時〇〇分、本件第二回口頭弁論期日の開始前に、当裁判所の裁判所書記官鈴木敏樹は、被告共和国及び被告公社による本件訴訟の各訴訟代理委任状を持参して当裁判所に出頭した被告らの訴訟代理人片山英二に対し、民事訴訟法一〇〇条に従って本件訴訟の訴状を送達し、直ちに被告ら訴訟代理人の出頭の上で第二回口頭弁論期日が開かれた。次いで、被告らは、平成一〇年六月二五日午前一〇時〇〇分の第三回口頭弁論期日において、答弁書を陳述した。

第三争点及び争点に関する当事者の主張

一  争点

本件の争点は、①本件債券の元金及び利息の支払を求める原告の本訴請求について被告らに裁判権の免除(主権免除)が認められるか、②原告による本件債券の譲り受けが弁護士法七三条に違反する行為として無効とされるか、の二点である。

二  主権免除に関する当事者の主張

(被告らの抗弁)

被告共和国は外国国家として、被告公社は被告共和国の政府機関として、いずれも外国国家又はその機関が他の国の裁判権に服しないという主権免除に関する国際慣習法により、本訴請求について日本の裁判権が免除される。

(原告の反論)

本件訴訟は、被告公社の債券発行行為という私人のなし得る私法的行為及び被告共和国による右私法的行為の保証という私法的行為に関する紛争であるから、被告らに主権免除は認められない。

三  弁護士法七三条違反に関する当事者の主張

(被告らの抗弁)

原告は、他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利を実行することを業とする者であり、原告の本件債券の譲り受けは、業として行う行為の一環をなすものであって、弁護士法七三条に違反する行為であり無効なものである。

(原告の反論)

原告が他人の権利を譲り受け訴訟等の手段によってその権利を実行することを業とする者であることは否認する。原告はケミカル信託銀行から本件債券を譲り受けたが、この譲渡は真正かつ完全な譲渡であり、原告による本件訴訟の提起は自己の有する権利の正当な行使である。したがって、原告による本件債券の譲り受けが弁護士法七三条に違反することはなく、譲渡は有効である。

第四当裁判所の判断

一  主権免除の抗弁について

当裁判所は、被告共和国及び被告公社のいずれについても、主権免除による裁判権の免除は認めることができないと判断した。その理由は、次のとおりである。

すなわち、前記(第二 事案の概要、二背景となる事実関係)のとおり、本件訴訟は、被告共和国の保証において被告公社が発行した政府保証債券について、債券発行主体である被告公社と債券上で保証した被告共和国に対して、その元金及び利息の支払を求める訴訟であり、被告共和国と被告公社は、いずれも本件債券の券面上の約束において、本件債券に関する訴訟については、東京地方裁判所の裁判管轄権に服し、日本の裁判所における訴訟においては判決の取得等の司法上の手続からの免責特権を放棄する意思を書面で明示的に表示している。このように、本件訴訟の請求原因事実は、外国政府の保証による債券発行という、今日の国際社会において国際金融取引として大規模に、かつ幅広く行われている経済活動に属する性質の行為であって、しかも、債券等の書面に記載された約束の条項により、債券発行主体の属する国家以外の他国の裁判所を管轄裁判所とし、その裁判管轄権からの主権免除を放棄する意思を明示的に表示しているのであって、このような場合についてまで、その経済取引の主体である外国国家又はその国家機関に対し、他国の裁判管轄権からの免除を認めることが、日本国憲法九八条二項によって日本国が遵守すべき「確立された国際法規」としての国際慣習法となっているとは、到底認められないからである。

このことは、次のような諸国の条約、立法、裁判例の動向からも明らかである。

国家の主権免除の考え方は、一九世紀の各国の裁判実務の中で形成されたものであり、当初は、主権免除の原則の適用範囲は、国家が主権を有し、互いに平等であることの結果として、いかなる国も他国に対して裁判権を主張することができないのであって、各国は外国の裁判所に原告として訴訟を提起しうるが、自発的にその裁判権に服しない限り被告とはされえないという絶対的免除主義の考え方が有力であった。日本においても、大審院が、一九二八(昭和三)年一二月二八日第二民事部決定(民集七巻一二号一一二八頁)において、「およそ国家はその自制によるのほか他国の権力作用に服するものに非ざるが故に、不動産に関する訴訟等特別理由の存するものを除き、民事訴訟に関しては外国はわが国の裁判権に服せざるを原則とし、ただ外国から自ら進んでわが国の裁判権に服する場合に限り例外を見るべきことは国際法上疑いを存せざる所」であると説示し、この判例は、当時の国際社会において、絶対的免除主義の考え方を採用したものと評価された。

しかし、二〇世紀に入って国家の活動範囲が拡大し、従来は私人の活動の領域とされてきた経済活動の分野に国家が進出したため、絶対的免除主義を維持すれば、外国の国家と取り引きする自国の国民の法的な地位を不安定にし、経済的な予測可能性を損い、国家の関与する経済取引の拡大を妨げるおそれが大きくなるということが、各国において認識されるようになった。そこで国内において外国と取り引きする自国民の取引の安全を保障しつつ外国国家の国際的な経済活動の基盤を安定させる必要から、制限的免除主義(国家活動をその機能により本来の主権的行為と私法的商業的な性質を持つ業務管理的行為に二分して主権的行為にのみ裁判権免除を認めるなど、国家の絶対的な裁判権免除を否定する考え方)が主張されるようになり、ベルギー・イタリアなど各国の裁判所がこの制限的免除主義の考え方を採用するようになった。そのほか、条約や各国の国内立法でも制限的免除主義の考え方によって国家の裁判権免除を制限する規定が設けられている。

すなわち、ヨーロッパ審議会(http://conventions.coe.int/)においては、一九七二年五月一六日、バーゼルにおいてヨーロッパ国家免除条約(ETS no.074)が締結され、第七条において「締結国は、法廷地国の領域において事務所、機関又は事業所を有し、それを通じて私人と同じような仕方で工業、商業又は金融活動に従事し、訴訟が当該事務所、機関又は事業所のそのような活動に関する場合には、他の締結国の裁判権からの免除を請求できない。」と規定された。この条約は一九七六年六月一一日に効力を生じ、二〇〇〇年一一月二五日までにオーストリア、ベルギー、キプロス、ドイツ、ルクセンブルグ、オランダ、スイス、英国の八か国によって批准されている。

米国では、一九七六年、外国の主権免除に関する規定を新設するため、合衆国法典第二八編が改正され、合衆国法典第一六〇五条は、外国の裁判管轄権免除に対する例外として、「訴訟が外国によって米国内で営まれる商業活動を基礎としている場合」を規定した。

英国は、一九七八年国家免除法を制定した。その第三条(1)は、「国家は以下に関する訴訟について免除されない。(a)国家によりなされた商取引、(b)契約(商取引たると否とを問わず)により、連合王国内で全部又は一部を履行すべきものとされる国家の義務。」と規定し、同条(3)は「商取引」の定義として「(a)商品又は役務を提供する契約、(b)金融条項に係る借款又はその他の取引及びかかる契約又はその他の金融上の義務に関する保証又は賠償、(c)国家が主権的権威の行使としてではなく締結し又は従事する、その他の契約又は活動(商業・産業・金融・専門職又はその他類似の性格のものに関する)。」と規定した。

主権免除の放棄に関しても、条約や各国の国内法において規定されている。ヨーロッパ国家免除条約第二条bは、締約国が書面による契約の中に含まれた明示の条項によって他の締約国の裁判所の裁判権に服することを約束したときは、当該締約国は当該裁判所の裁判権からの免除を主張することができない、と規定した。英国の国家免除法第二条も、国家が、書面による事前の合意によって英国の裁判権に服することを規定した。米国においても合衆国法典第一六〇五条において、外国の裁判権免除に対する例外として、「外国が、明示的と黙示的との如何を問わず、その主権免除を既に放棄している場合」を規定し、この規定の趣旨について、立法当時の下院の報告書は、「外国は私人を相手方当事者とする契約の中で免除を放棄することができる。」と説明している。

このような主権免除をめぐる今日の国際社会の実情を踏まえて本件について検討すれば、政府保証による公債発行という本訴請求の原因行為の経済的な性質及び事前の債券上の意思表示において被告らが明示的に裁判権の免除を放棄しているという事前の書面上の明示の主権免除の放棄など、本件の事実関係を前提とすれば、主権免除に関する国際慣習法により本訴請求について日本の裁判権が免除されると主張する被告らの抗弁は、被告公社の国家機関としての性格の有無や本件公債発行の目的等、その他の点について検討するまでもなく、採用することができない。

二  弁護士法七三条違反の抗弁について

弁護士法七三条が「何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができない。」と規定した趣旨は、他人の権利を譲り受けてこれを実行することを経済的な目的とすることを一般的に許せば、債権譲渡及びその実行を無制約な利潤追求の対象とすることになりかねず、その実行のために譲受人が濫訴を提起したり、交渉に名を借りた不当な要求を行う事態が生ずるおそれがあるので、他人の権利を譲り受けこれを実行することを業とすること全般を禁止することにより、このような弊害の発生を未然に防止し、国民の法律生活の安定を図る目的にあると解される。

しかし、他方で、債権の譲渡は、債権者にとってその有する財産を換価処分するための最も重要な手段の一つである。それにもかかわらず、債務者が債務の履行を怠るなど債務の履行の確実性に疑いが生じ、訴訟等の紛争解決手段が債権回収のために必要な状態において、訴訟等の紛争解決手段をとる必要性を予期しながら債権を譲り受けることを業とすることを弁護士法七三条が幅広く一般的に禁止していると解するとすれば、債権処分の道筋を実質的に塞ぐことによって債権者の債権の価値を一方的に損ない、債務を履行しない債務者が不当に有利な地位に立つ事態を招きかねないおそれがある。

このような債権者・債務者間の権利関係の公平の維持の要請と弁護士法七三条の規定の究極の目的である国民の法律生活の安定の要請との調和の観点から弁護士法七三条の規定を合理的に解釈するとすれば、同条の適用範囲は限定的に解されるべきである。すなわち、他人の債権を譲り受けることを業とする者が、その譲り受けに際して訴訟等の紛争解決手段を通じて債権を実行する必要性を予期しながら譲り受けることをもその者の業の一環としている場合でも、そのことが直ちに弁護士法七三条に違反する行為に当たると解すべきではなく、取引の対象となった債権の種類、事件性や紛争性の有無・程度、債務者の性質、債権の譲り受けの対価の決定方法その他の譲渡の目的・態様、債務者に対する請求方法等の譲受後の権利行使の態様など、他人の債権の譲り受けを業とする行為を総合的に考察し、その行為が他人の紛争に介入することによって利益を得ることを目的とし、弁護士法七三条の趣旨に反して国民の法律生活の安定を害する弊害を生ずるおそれがある行為であると評価することができる場合に限って、弁護士法七三条に違反する違法な行為に当たると解することが相当である。

これを本件についてみると、前記事実関係(第二 事案の概要、二 背景となる事実関係)において認定した原告の本件債券取得の経過と、本件訴訟の経緯並びに《証拠省略》によれば、原告は銀行ローン、私募債、債券その他の債務不履行に陥っている不良債権及び証券等の不良債権の購入及び売却を主要な業務の一つとする英国の会社であり、本件債券の譲り受けを原告がその業務の一環として行ったこと、原告はこれらの不良債権購入業務を行うに当たっては訴訟等の紛争解決手段をとることを十分予期していたこと、以上の事実を認めることができる。しかし、他方で、本件において譲り受けの対象となった他人の権利は、外国政府の保証により発行された公債の権利であり、有価証券という流通性が最も保護されなければならない権利であること、権利の内容が有価証券に表示された一定額の金銭債権であり、債務者である被告らは、外国の国家及びその外国の特別法に基づいて設立された公社であって、債権の譲渡によって権利行使の方法で不当な圧力を受けることは考えられないこと、譲受人である原告の被告らに対する権利行使の手段に債務者の権利を害すべき不当な方法をとった事実は認められず、その他原告がその不良債権購入業務に関して他人の紛争解決に不当に介入したといえるだけの事実は認められないこと、など本件債券の譲り受け及びその背景となった原告の不良債権購入業務に関する諸般の事情を総合的に検討すれば、原告が業として本件債券を譲り受けた行為について、弁護士法七三条によって禁止されている「他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とする」行為の一環として行われたものと評価すべき違法性があるとは認められないというべきである。

したがって、原告による本件債券の譲り受けを弁護士法七三条に違反する行為であり無効なものであると主張する被告らの抗弁は、採用することができない。

三  結論

よって、原告の本件請求には理由があるからこれを認容し、仮執行の宣言は相当でないから付さないこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林久起 裁判官 河本晶子 松山昇平)

<以下省略>

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